『ネットワード・インターナショナル・サービス(以下、Netword)』『パシフィック異文化教育アカデミー(以下、PCA)』がメディア掲載、取材等で取り上げられた記事を紹介致します。
以下、掲載記事
【インター日記 新しい教育の方法を模索して①】
顔が見えた方がやっぱりええわ!
京都市視聴覚センター 社会教育主事 指導主事
(京都市情報教育センター 指導主事兼職)村上 繁樹
インターネットテレビ会議システムの利用
「わあー」「聞こえた!」信じられない!今オーストラリアと回線がつながっている。参観する私たちにも、緊張と安堵のため息が聞こえそうであった。英語の声が教室中に響く。続いて京都の子どもの声が続く。そして一五分後にテレビのモニターにもロビナ小学校の子どもが画面に登場する。歓声があがる。こうして国際電話とインターネットのテレビ会議の両方を使っての学習が展開された。
学習の舞台と学習のあらまし
今年一月二九日に京都市立松尾小学校の四年生と遥か太平洋をまたいだオーストラリアのクインズランド州立ロビナ小学校の四年生とのリアルタイムでの交流授業が行われた。学校教育番組をスタートに、一年間にわたって環境問題と取り組んできた京都の子どもたちが、「外国の小学校でも自分たちと同じ環境問題を学んでいるのか」「どんなことを考え、行動しているのか、その様子をぜひ知りたい」「情報の交換をしたい」と言い出したことがことの始まりである。国際電話を使って交流が行われた授業後の現在も「インターネット・テレビ会議システム」を通じて、子どもたちの交流が継続しており、今年の六月にはロビナ小学校から京都の松尾小学校への訪問が実現するそうである。
インターネットが結んだ日本とオーストラリアのニつの小学校の今後に、多様なメディアがどうに活用されるのか強い関心と興味をもって注目している。このシリーズは、松尾小学校における視聴覚教育メディアを活かした学習を発端にして、「インターネット・テレビ会議システム」などマルチメディアを取り巻く視聴覚教育についてさまざまな角度から迫る企画である。
実践校の京都市立松尾小学校
文部省や京都市教育委員会の研究指定を受けて、ここ五年来、視聴覚教育メディアの活用を核とした校内研究に取り組んでいる小学校である。最近の研究主題を見ると、子ども自身が自分の思いや考えをもって進んで行う「表現力の育成」を取り上げている。教育メディアの特性の理解と教育メディアを活用した授業研究、また取材活動や学習成果の発表会で子どもたちにさまざまなメディア体験をさせる実践を積んできた。教育メディアは指導者側の道具としてばかりでなく、子どもたちの表現活動の道具としても有効であること、どのメディアがどの活動に一番働くかを子どもに選択させ、鉛筆やノートと同じように道具のひとつとしてメディアを使いこなせるように、子どもは十分に、納得のいくまで、開放して使わせようとしている。教育メディアを活用することにより、創造性や感性を培い、生き生きとした子どもの表現を引き出そうと取り組んでいる。二一台のコンピュータ導入を機に、表現の道具としてのコンピュータを評価し、学習に活かしている。注目すべき松下視聴覚教育研究財団の研究助成を受け、八年度中にLANシステムを構築し、一度に子ども側の端末六台がインターネットと接続できる環境を整備し、学習に利用していることである。またホームページを開設し、市内の小学校と電子メールで交流を始めている。日常の学習に教育メディアが当然のように活用されていることや、校内のメディア環境充実と変化の様子を子ども自身が感じとり、コンピュータで学習を体験した子どもたちは、インターネットが世界とつながっていることや学習資料にとどまらず、多様な生きた情報が満載されていることなどを自然と感じとっている。「コンピュータがあればできるにちがいない」「インターネットをやってみたいな」「見てみたいな」こうした子どもたちの思いや欲求の高まりが中井学級の今回の学習に反映しているようだ。
学習の経過と特徴
四年生の学習については、本誌五月号で中井万起子教論から詳しい報告があるので期待していただきたい。本稿ではテレビ会議に至るまでの学習の経過と特徴を紹介するにとどめる。
①ごみやリサイクルの現状や環境問題について、放送番組「わたしたちの近畿」シリーズ「ごみのゆくえ」「くらしを蚊考える・リサイクル」の二本から最新の情報を受け、地域の環境調査や取材活動を始める。映像教材(学校放送、一般番組、市販ビデオなど)とその他の資料のメディアミックスが学習意欲を高め、学習の見通しと体験学習の視点づくりとなる。
②地域の掃除や空き缶回収と森を買う計画など環境保全の活動の広がりが見られる。学級から学年、児童会へと発信し、輪を広げる。担任は子どもとともに働き、学習活動を支援する。
③少し意識が薄れた三学期に、課題の確認のために放送番組「わたしたちの近畿」の再視聴をする。この結果、実践意欲が高まり、外国での環境問題の取り組みについての情報要求へとつながった。インターネットを活用する学習方法や手段を子どもが先取りして、外国との交流を実現させ、学校を変えていった。
当日の学習では二つの学校にそれぞれボランティアの同時通訳をおいて、国際電話とインターネットを使って交信を行う。後日にもインターネットでテレビ会議を成功させる。
番組「わたしたちの近畿」と研究大会
公開授業は毎日放送テレビ教育研究会京都地区大会において行われた。京都市小学校教育メディア研究会(平成八年四月に放送教育研究会と視聴覚教育研究会ならびに教育コンピュータ研究会が統合)と毎日放送テレビ教育研究会(テレビ教育願組を研究する近畿圏の教員などで構成する任意団体)が主催して、京都市立松尾小学校を会場として開催された。今年のテーマは『ごみとリサイクルを考える〜四年生が環境問題について考え行動してきました〜』で、番組「わたしたちの近畿」が主幹メディアとして利用されて、この単元の学習が開始された。
毎日放送は、二〇年以上も前から、今日までスポンサーをつけないで、毎週金曜日の定時に学校教育番組「わたしたちの近畿〜四年生の社会科〜」を年間三九回提供している。学校現場とフィードバックしながら、最新の情報を番組に反映するよう改訂や新作を心掛けている。番組は一五分間で、近畿各地の特色ある自然環境や産業を取り上げ、人間のくらしぶりを子どもたちに語りかける。京都地域の子どもたちは番組に取り上げられた大阪や兵庫、和歌山などの他地域の情報に接しながら、自分の住む地域の様子と重ね合わせ、同じところや異なるところを感じ取り、見つけたりして、学習の対象への興味や関心を高め、好奇心や探究心を先鋭化させているのである。単に情報を提示し、知識を与えることを主とする番組ではなく、子どもたちに課題を与え、考えさせ、調べる意欲と、時には学習の見通しさえも持たせてくれる良質の学習材といえる。
二本の番組もゴミ問題や資源・エネルギー問題を取りあげ、地球環境の保全やリサイクル社会について関心を高めるものとなっている。
今回の実践をふりかえって
①社会科学習としてのスタートが、学習材としての深まりと広がりから、総合学習に膨らませ、弾力的なカリキュラムの構成になった。余裕をもって、学習課題と取り組ませ、展開できた。環境を日常の中で意識し、行動につながった。身の回りから行動し、地球的規模で考えることが外国の友だちとの交流へと実を結んだ。
②リアルタイムの交信のため、言語の課題を解決するために、クラブ活動(子ども国際クラブ)の外国人講師を教室に招いて、当日の同時通訳と相手校への文書などの翻訳もお願いし、この学習を支える重要な役割を果たされた。必要に応じて学習に参加していただく外部の人材を活用することが今後増えていくと思われる。
③インターネット一般と違って、電話会議あるいはテレビ会議システムには、具体的で特定の条件を兼ね備えた相手が必要である。リアルタイムであるため、時差の少ない都市の学校が同様の学習をして、国際交流に関心がある相手が最適といえる。今回のように好条件の相手とつなぐためには、情報を持つ者のネットワークづくりが必要である(今回はコンピュータ教育開発センターの鈴木勢津子先生に随分お世話になりました)。
④この学習はテレビ会議を目的にしてスタートをしていない。学習の進展につれて、内から外に向かって子どもの思考がつながり、その延長線上に「外国」があった。日常のインターネット経験を通して、インターネットが世界と結び付いた通信手段であり、欲しい情報が手に入ることや世界に向けて発信できることを知っていたので、より高度な手段・方法を要求したのである。子どものメディア体験を活かしたといえる。
⑤テレビ会議にするか、国際電話にするかを検討した。相手側との事前の準備日数も十分でなく、通信環境を整える余裕もないなかでの交信となるため、当日は確実につながる安定回線の電話で行う。ファックスや電子メールなどで相手方の情報を入手しようということになった。間に合えば当日、インターネットによるテレビ会議を補助的に扱うこともあるということで学習に臨んだ(結果は五月号で紹介)。遠距離通話のために通話料金の問題などの課題が残る。
⑥マルチメディアパソコンの操作や環境準備などに、協力指導の工夫が必要である。T・Tの形として、「システムサポート教員」(筆者)がインターネット周辺の細かな準備をして今回の実践が成立した。校内体制としてはマルチメディアに熟知し、しかも担任をした経験者が学習に関わっていく松尾小学校のやり方も参考となる。
これは受信型から発信型の学習へみごとに変革していった実践である。マルチメディアを活かす上で、このシリーズが役に立てばと思う。交流先のロビナ小学校からの報告も本誌で取り上げられる予定。この実践を俎上(そじょう)にあげ、さまざまな角度から考えましょう。
図1)収集したゴミの仕分け